カンボジアのeコマース環境

こんにちは!

発展途上国でeコマースをはじめとするオンラインビジネスを検討する際、現地の「決済手段」と「物流」の2点が、大きなハードルとなることが少なくないのではないでしょうか?
今回は、カンボジアにおける、この2点に関するお話をしたいと思います。

先日、カンボジアの郵便局がモバイル決済サービス大手のWingと提携し、eコマース事業に乗り出すという興味深いニュースがありました。
http://www.khmertimeskh.com/news/24146/post-office-wings-e-commerce-deal/

郵便局は独自の郵便・配達ネットワークに、強力な決済サービスを味方につけたということができる、気になるこのニュース。
Wingとは?カンボジアにおけるeコマースの現状は?郵便局の狙いは?
以下にまとめてみたいと思います。

❖Wingとは?

【サービス概要】
カンボジア発のモバイルアカウントサービスで、携帯電話番号さえあれば、銀行口座がなくても、携帯電話番号と紐付いた口座が持てるという画期的なサービスです。
世界銀行のデータベースである『Global Findex 2014』によると、カンボジアにおける、15歳以上の銀行口座保有率は22.2%クレジットカード利用率は2.3%と、ASEAN諸国の中でも特に低い水準となっています。


<The World Bank『Global Findex 2014』より>

一方で、携帯電話の普及率は100%を超えているカンボジア。

15歳以上のモバイルアカウント保有率は13.3%と、東南アジア太平洋諸国全体の0.4%に比べて高くなっています。

Wingは、2009年にANZ銀行(オーストラリア・ニュージーランド銀行)が始めたサービスですが、2014年にカンボジアの中央銀行から専門銀行としての認可を受け、現在ではWing (Cambodia) Limited Specialised Bankがその運営主体となっています。
以下のような緑の看板のある代理店で、アカウント(Wingカード)の発行、入金、個人的な送金や料金の受け取り、公共料金などの支払いといった手続きを行うことができます。

プノンペンでは、Wingの代理店を日本のコンビニ並の至近間隔でたくさん目にすることができます。
Wingカードは身分証明書と2.5USDを持参すれば与信審査なく誰でも簡単に発行でき、入金、送金、携帯電話料金(SIMカード)のチャージといった手続きもアカウントナンバーがあれば、携帯電話から簡単にできます。


<Wing ホームページより>

また、Wingのアカウントを持っていなくても、Wingの窓口に現金を持参すれば、送金者/送金先の電話番号を伝えるだけで、簡単に送金を行うことができます。
送金後、窓口で発行されるシリアルナンバーを送金相手に伝えれば、送金相手は最寄のWingカウンターでナンバーを伝えて料金を受取ることができるという仕組みです。
Wingの代理店はカンボジア全土に3,600拠点(2016年4月現在)、Wingカード発行数は550,000枚 (2015年3月時点)と言われています。
人口約1,500万人のカンボジアですから、単純計算するとカード普及率は約3%になります。
しかし、Wingでの送金はカードがなくてもできますので、実際の利用者はこれよりさらに多くなるはずです。
2009年にWingが行った調査によると、詳細なサービス内容を知らない人は未だ多いものの、サービス認知率はこの時点で国民の95%を超えていたといいます。

【ビジネスモデル】

Wingの代理店は、資本金10,000USD以上があり、営業時間やスタッフ人数、立地などの一定の条件を満たしていれば、誰でも始めることができます。
代理店の主な収入源は、送金時の手数料です。
手数料は送金者、送金先がWingアカウントを持っているか否かで変わってきますが、アカウントを持っている人同士間の送金であれば、1回につき1,000リエル(約0.25USD)~となっています。
送金サービスがない頃、長距離運転手に数ドルの手数料を渡して遠隔地まで現金を届けてもらったり、家族に仕送りするために何時間もかけて田舎に戻っていた人達にとってWingのシステム・料金は、革新的であるといえます。
一方、代理店側の収益という面ではどうでしょう?


<Wing ホームページより>

送金手数料は、両者ともアカウントを持っていない場合に最も高くなりますが、その場合、~$500.49までの送金1回につき手数料6,000リエル(約1.5USD)となります。
そのうち、2,200リエル(約0.55USD)が送金側の代理店収入、3,000リエル(約0.75USD)が受取側の代理店収入、残りの800リエル(約0.2USD)がWing本部の収入となります。
※弊社調べ
送金額が$500.50以上であれば、手数料は10,000リエル(約2.5USD)です。
あるWingの代理店オーナーにヒアリングしたところ、Wingによる1日の収入は20USD程だと言います。
×30日とすれば600USDですので、最低賃金が140USDのカンボジアにおいては悪くもありませんが、これだけをビジネスとするのは正直キツいという見方もあるでしょう。

飲み物やお菓子などを扱う小さな商店や写真屋、両替屋といった店舗が、片手間でWingの看板を出している状況が多くみられます。
カンボジアでこのようなモバイルアカウントサービスを最初にはじめたのはWingであり、サービス開始から5年程はこの市場ではWingがほぼ独占といった形でしたが、現在では「eMoney」「SmartLuy」「True Money」といったような類似サービスも増えてきています。

❖カンボジアのeコマースの現状は?

さて、Wingのような決済サービスを利用したオンライン販売は、カンボジアでも少なからず行われています。
ただ、Amazonや楽天のようなB2C、B2B2Cのオンラインマーケットプレイスでメジャーなものは、まだほとんどありません。

一方で、「Khmer24」というサービスに代表されるC2Cのオンラインマーケットプレイスや、Facebookを介した個人(個人ディーラー含む)間のモノの売買は、若者を中心として盛んに行われています。

「素性の分からない業者からモノを購入するのは、不良品や偽物を買わされそうで怖い」というカンボジア人の声を聞くこともあります。
「ある程度身元が分かり、信頼のおける個人からモノを買う方が安心」という心理もあるのかもしれません。
その他、「Little Fashion」というアパレル店に代表されるような、専門店のオンラインストアもいくつか存在します。

これら現状のeコマースにおいては、電話やSNSのコメント・メッセージまたはオンライン注文画面でオーダーし、商品は店頭引き渡し(個人間取引の場合は、直接会って手渡し)というスタイルが主流です。

専門店のオンラインストアの場合、自宅まで配送してくれたり、郵便局渡しという形をとっているものもあるようですが、あまり多くないと思われます。
さらに、カンボジアの郵便事情について付け加えますと、日本のように直接自宅に配送してもらえることは稀(直接配送を依頼しても、住所表記が曖昧で届かないことも多い)で、モノが届いた時点で郵便局から電話があり、自ら郵便局に受け取りに行くスタイルが一般的です。

この方法での商品受け取りはなかなか面倒ではありますが、遠隔のショップからオンラインで商品を購入し、店頭受け取りが難しい場合などには便利な方法といえます。
❖郵便局の狙いは?

今回の郵便局とWingの提携のニュース。
すべての郵便局でWingのサービスを使用できるようになるほか、この提携は、今年中のeコマースのローンチに向けた布石だとされています。
郵便局のDirectorであるBora氏曰く、
「我々の目標は、eコマースを運営することです。今回の提携により、消費者の皆さんはオンラインで商品を購入し、携帯電話で簡単に決済を行うことができるようになります。」ということです。
これが、オンライン販売におけるWingでの決済と郵便局での受取り促進を加速させることを意味するのか、はたまた全く別のeコマースサービスをはじめることを意味するのか、詳細はこの記事からは分かりませんが、郵便局主導で何か大きな動きがありそうです。

ちなみに、日本郵便は、これまで培ってきた郵便網と独自のソリューションを活用し、2014年にECサイトの構築から受注・決済・出荷・配達・通販マーケティング支援などをトータルに行うサービスを始めています。
http://www.post.japanpost.jp/service/tsuhan_solution/pdf/jp_sol.pdf

住宅一戸一戸にポストもないようなカンボジアですから、いきなりここまで・・・いくのかは分かりかねますが、まだまだ発展途上のカンボジアのeコマース領域に新しい風が吹くことは間違いないでしょう。
今後の展開から目を離せません!

▼参考記事:
・『KHMER TIMES』Post Office Wings E-Commerce Deal(2016.4.24)
http://www.khmertimeskh.com/news/24146/post-office-wings-e-commerce-deal/
・『KHMER TIMES』Mobile Money Takes Off with Wing(2015.3.1)
http://www.khmertimeskh.com/news/9291/mobile-money-takes-off-with-wing/
・Wing ホームページhttp://www.wingmoney.com/